新聞の社会面では,痴漢行為で御縄,の記事が複数載ることはあっても,絶えることはありません。ここでは,その防止策を論じるつもりはありません。罰則に対する違和感について述べます。
ぞくにいう痴漢行為は,刑事上,刑法典に規定された「強制わいせつ罪」か,さもなければ各地方自治体で定められたいわゆる「迷惑防止条例」などの条例違反行為として罰せられます。
ちなみに,強制わいせつと条例違反の違いは,下着の中に手を入れたかで分けられると言われることもあります。たしかに,感覚的には,そのような区別がなされているといってよいでしょう。しかし,厳密には,あくまで強制わいせつにあたるといえるためには,強制性の契機が必要です。すなわち,身体を拘束するような影響力を与える必要があります。具体的にいえば,たとえば,下着の中に手を入れるくらい,接近・圧迫していれば,それだけ強制性が強く発現しているといえるでしょう。だからこそ,先ほど述べたような区別がある程度あたるわけです。
もっとも,強制性があれば,強制わいせつになるのですから,必ずしも下着の中に手を入れなくても,被害者の身体をぎゅっと押さえつけるような,あるいは,逃げ場のない位置に追いやった上で痴漢行為に及べば,服の外からでも強制わいせつにあたることになります。
さて,それでは,強制性のない痴漢行為について考えてみましょう。こちらはいわゆる迷惑防止条例などと呼ばれる条例の違反行為にしかなりません。罪としては一気に格下げされてしまいます。のみならず,この条例の本質は,迷惑をかけたことや羞恥心を与えたことに対する罰則というものであり,守るべき利益は,迷惑をかけないことや羞恥心を与えないことになります。もちろん,別にそれによって結論に問題があるとは思っていません。しかし,なんだか腑に落ちないのは私だけではないはずです。
その感覚は,おそらく,犯罪行為とそれに適用される法律の法益とがマッチングしていないことに起因するのではないでしょうか。たしかに,マニアックな痴漢行為については,まさに,迷惑や羞恥心というのがぴったりくるものもあるでしょう。たとえば…(略)…しかし,痴漢行為の基本型といえる,相手にそっとタッチする行為にぴったりあてはまるとは思えません。どうも靴の外から足をかいているような気持ちです。
本来,痴漢行為の侵害する利益は,好きでもない他人から自分の大切な人のための体を触られることにあるのではないでしょうか。つまり,「みだりに自己の体を他人から触られない自由」こそ法益とされるにふさわしいと思います。
そこで,私は,刑事立法として「タッチ罪」を創設することをここに提言します。これこそが,痴漢行為の本質を真正面から捉えるものであると確信しています。タッチ罪には,タッチをしないマニアックな行為はもれてしまいます。しかし,当面,マニアックな行為は,なお条例違反の網をかけておけば現状を維持できるでしょう。また,スキンシップのようなコミュニケーションを円滑に進めるための行為であると認められれば,罰しません。この際,未遂は罰しなくてもよいでしょう。このようにして際限ない処罰を防ぐことも可能です。
カタカナ語に難色を示す方もいらっしゃるかもしれませんが,ストーカー規制法などの法律が最近できたことを思えば,法律らしくないとの批判はあたりません。むしろ時代の潮流に棹差しているとみるべきでしょう。
あとの課題は国会へのロビー活動ですが,こちらは遅々として進みません。このアイデアをはるか昔の受験生時代に思いついてから,いまだ誰にも話せないでいます。まずは,朝日の論壇に投稿を…。私の眼の青いうちに立法化の機運だけでも生まれることを夢見て。
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